温泉を求めて

自然湧出から掘削へ

 今回は「温泉を求めて」をテーマにお話を進めて行きたいと思います。

 昔々温泉は自然に地上に湧き出していましたが、それだけでは満足できなく、井戸を掘って温泉を求めるようになってきます。掘る場所は、例えば雪が降ってもその場所だけは雪が積もらない地点とか、沼や川の淵で温泉の湯花みたいなものが出ている地点などが選ばれています。かなり多いのは先祖や神様・仏様などが夢枕に現れて、この場所を掘れば温泉が出るとのお告げによるものです。

 掘る技術も幼稚なものですから、成功するもしないも運否天賦の世界です。

 1900年初期には、掘削機械を使い口径5cm・深度100m程度の井戸が掘れるようになりました。戦後の日本経済成長に連動して温泉の需要が高まるに伴い、温泉掘削の技術も進歩して口径8cm・深度300m程度の井戸が多く掘られました。当時は水中ポンプなどがありませんので、井戸の中に細いパイプを深く挿入し、上から圧力で空気を送りお湯を汲み上げる、エアコンプレッサー方式が殆どでした。掘削する場所は、火山性の温泉が成功率も高いことから、既存の温泉場周辺が選ばれました。

 前回温泉の誕生で、地下水、温泉母岩、断層(割れ目)の3つの条件が必要であることをお話しました。ですからこの条件の整っている地点を調査して見つけることです。

自然放射能探査

 温泉源の調査方法として、物理探査の手法を使います。いま使われている探査方法は、自然放射能探査、電磁探査(CSAMT)、垂直(深部)電気探査、水平電気探査(比抵抗映像法)などがあります。これらの方法を一つ又は二つを組み合わせて調査をいたします。もっとも多く使われるのが、自然放射能探査です。この方法の概要をご説明したいと思います。

 前回地球は隕石の集合体で誕生したと申し上げました。隕石同士が遠心力で回転するときの摩擦熱は2~3千℃の熱が出て、放射能鉱石が発生し地球深部のマントルとなることから、地球は常に地下深部から放射線を出しています。

 自然放射能を感知するセンサー(シンチュレーション)を地表付近に設置して地下からの放射線強度を測定します。地層の中の断層・割れ目は、周囲の岩石の部分よりポーラス(緻密ではない)ですから、地下からの放射線は通りが良いので高い値を示すことになります。測定する放射線は、アルファ線、ベーター線、ガンマー線のうち透過力の最も高いガンマー線を測定します。ガンマー線総量の大小の値だけで判断していましたが、地上の色々のファクター、例えばコンクリートの道路や塀などの構造物等により、解析が難しく温泉掘削の地点を誤り、ボーリングに失敗することもありました。

温泉掘削地点の探査

 現在の探査は、空からも地上に宇宙線が降り注いでいますので、この放射能量も加算しないように、測定器には鉛で宇宙線カットの防御付を使用しています。ガンマー線総量の測定の他、岩石中に多く含まれている元素番号19のカリウム、地下水に溶けて流動する元素番号81のタリウム、 亀裂や断層中を移動する元素番号83のビスマスを同時に測定し総合的に解析します。

 測定地域の広さにより、ヘリコプター(ヘリボン)や自動車(カーボン)に測定器を積んで測定します。限られた狭い範囲のときは人(マンボ)が担いで行います。細かく測定された測点の高い強度の地点を結び合わせると断層の面方向、幅などが判り、掘削地点が絞り込めます。

 このように温泉の貯留形態を探査し解析して、温泉掘削地点を探り当てても、2000m地殻深部の温泉脈を100%掌握することは現時点の技術を駆使しても難しいのですが95%強の精度はあるようです。

より深いところへ

 温泉源の型は大別して「層状泉型温泉」と「裂こ泉型温泉」の二種類に区分されています。実際には両方の型が複合した型もあります。

 層状泉型温泉は、地殻変動が激しく行われたために、地層が乱れて断層や亀裂が四方八方に走り、丁度割れた茶碗を逆さにしたような形です。内部では地熱が上昇し多孔質の地層に充満している地下水を温泉化して、多くの割れ目から温泉が吹き出てきます。この型に属する温泉地は大型のものが多いのが特徴です。

 裂こ泉型温泉は断層の幅が70~200m程度で、長さが100~200mの規模のものが多く、ある方向性をもっております。一本の断層であったり、雁行のように幾帯が並ぶ場合もあります。断層同士が交差する形のもあり、交差した地点に温泉の湧出の成功例が多いとされています。

 火山帯が温泉の主な供給源とされてきた時代は過ぎて、路頭に顕れない地下の断層を的確に掴み、いままで温泉は出ないと言われてきた地域でも、温泉が出るようになりました。その原因の最大の理由は、温泉探査の技術の進歩もさることながら、2000m級の温泉深堀が可能になったことです。

 日本の温泉法によれば、温泉源の地上における温度が25℃あれば全て温泉であると規定されています。地下の温度は、一般に100mで2~3℃上がるので1500mの地下の温度は30~45℃となり、地下1mの初期温度10℃を足しますと40~55℃となり、地下から地上まで上がってくる温度ロスをみても、25℃を確保できる勘定になります。

 ところが日本のボーリング技術では1500mを掘削することは不可能に近いことです。

 窮すれば何とか成るもので、1988年からクウェートで地質コンサルタントをしていた関係で、アメリカの石油ボーリングの高度な技術を熟知した市野文明氏がおりました。1990年代に帰国していた市野氏は、温泉の1500mの深堀がアメリカメジャーの技術を導入すれば簡単に実現すると確信したようです。石油掘削機械はリグと呼ばれていて、大型で価格も高価でした。幸いなことにメジャーの石油の掘削深度が4000~5000mに切り替わり2000m級のリグが要らなくなりました。リグは使わなければ鉄の塊でしかないので、安価で日本に持ち込むことができました。

 あまりにも大きいこのリグを操作できるオペレータが日本におりませんので、アメリカの掘削企業と提携して1500m級のボーリングを成功させます。その後日本人も操作を習得して、現在は全て日本人のオペレータがこなしています。

 アメリカと日本の掘削機械を比較してみますと、岩石をトリコンビットで砕いてゆく機械ではアメリカは550馬力(412.5kW)に対し、日本は元利根ボーリング製の最大の機械で180馬力(132kW)です。掘削されたザクを、泥水とともに抗外に排出するポンプは、アメリカは550馬力ですが、日本は100馬力(75kW)です。日本製が1000mを8ヶ月の工期で掘り上げるところ、アメリカのリグを使用すると2~3ヶ月で掘ることが可能です。温泉の深堀が短時間で可能になりました。

 しかし温泉を掘り当てても、地下にある温泉を、地上まで汲み上げねばなりません。水中ポンプを井戸の中に挿入して温泉を楊湯することになりますが、日本製の水中ポンプは、350mの楊程、坑内での耐熱温度は80℃が限界です。この性能の範囲以外の井戸は、温泉を地上まで引き上げられません。そこでメジャーの石油ポンプを調べたところ、数千mの楊程、モーターの耐熱温度は232℃あり十分な性能があることが判りました。直ちに㈱ノートンを通じてアメリカの石油汲み上げポンプ「REDA(レーダー)」を輸入し使用したところ大成功でした。

 以後日本国内で盛んに「REDA」が使われています。温泉探査における精度の高い大型の放射能感知器、掘削機械リグ、温泉汲み上げポンプ、モーターの全てをアメリカのメジャー石油技術を利用して、温泉を確実に手に入れることができたといえましょう。

乱立、規制、これからの温泉

 このことによって日帰り温泉をはじめ数多くの温泉施設の乱立の現状になったように思われます。ほとんどの温泉施設は、予想を超える多くの人に利用され、温泉と大衆の癒合が確立され喜ばしいことと思われます。

 その反面入浴中に、浴槽のレジオネラ属菌に感染し死亡する事故が起きました。監督官庁である厚生省は、防止対策として、 温泉水を塩素系薬剤で消毒する規制を発令し義務付けています。新鮮な温泉は還元系で若返りの水ですが、薬剤を投入した瞬間に、酸化系の老化の水に変わってしまい残念なことです。

 また、温泉中に含まれていた、メタンガスによる爆発で犠牲者を出した事故により、源泉における、厳しいガス対策の規制が出されています。レジオネラ属菌感染にしても、ガス爆発事故にしても、その原因は、温泉施設の管理者の無知、温泉施設の設計、施工者の無知により引き起こされた、事故原因調査資料にあきらかにされています。事故が重大であることから、温泉の管轄官庁としては、厳しい規制を出さざるをえなかったと推測されます。迷惑するのは、利用者であり施設運営者です。これを教訓にして温泉施設の発展が望まれます。そして、温泉施設の増加の良否は歴史が語ることになるでしょう。

著者:荒井孝