温泉の効能(2)

前回に続いて・・

 前回に引き続き温泉の泉質別についてのお話です。

重曹泉

 正式にはナトリウム・炭酸水素塩泉といいます。水1キログラム中に固形成分1,000ミリグラム以上を含み、陰イオンはヒドロ炭酸イオン、陽イオンは80%以上がナトリウムで、これが結合すると重炭酸ナトリウムを構成するものをいいます。一般に重曹といわれている物です。

 重曹泉は含食塩重曹泉、含芒硝(ぼうしょう)重曹泉と言うように、いろいろな塩類を含み種類が多いのですが、みなそれぞれ重曹泉の特性を持っています。重曹水は加熱により炭酸ガスを放失して、炭酸ナトリウムになり強いアルカリ性を示し、肌のすべすべする温泉に変身します。お湯に入れると炭酸ガスを出しすべすべしたお湯になるという重曹を利用した入浴剤が市販されていますのでご存知の方も多いのではないでしょうか?

 重曹泉に入ると、皮膚の表面を軟化させる作用がありますので、皮膚病に効果があります。炭酸ナトリウムは皮膚の脂肪や分泌物と反応して乳化し、石鹸のように汚れを落とし皮膚を清浄します。浴後は皮膚表面から水分の発散が盛んになり、体温が放散されて、清涼感と同時に冷感もあり「冷えの湯」とも呼ばれています。

 皮膚を滑らかし、火傷、切り傷にも効果がありますから「美人の湯」ともしても好評です。また、胆汁の分泌を促すので、肝臓、すい臓の働きも活発になり、胆石症、慢性の胆のう症、胆のう症、初期の肝硬変や糖尿病、痛風、尿酸結石、慢性尿路炎症、などに効果があります。無色透明で、石鹸がよくきく緩和性の温泉ですからヨーロッパでは「肝臓の湯」と呼ばれています。

 他の泉質名の温泉でも、重曹の多く含まれている温泉は「美人の湯」を呼称している温泉施設がけっこう多く見受けられます。

硫酸塩泉

 水1キログラム中に固形物1,000ミリグラム以上を含有し、陰イオンとして硫酸イオンがその主成分で、主な陽イオンの種類で三種類にわけられるものをいいます。芒硝(ぼうしょう)泉、石膏(せっこう)泉、正苦味(せいくみ)泉の三つに分けられています。さらに重炭酸土類泉、明ばん泉が包含されました。

 芒硝良は陽イオンとしてナトリウム硫酸泉といいます。高血圧症、動脈硬化症、外傷に効果があります。市販されている入浴剤にはこの芒硝が主成分として用いられています。

 石膏泉は陽イオンとしてカルシウムを含むもので、カルシウム硫酸塩泉といいます。このカルシウムには鎮痛効果がありますので高血圧症、動脈硬化、脳卒中、慢性関節リューマチに良く効きます。そのほか打ち身、切り傷、火傷、痔ろう、捻挫によく、皮膚病では乾癬(かんせん)、慢性湿疹、ニキビ、皮膚のかゆみなどに効果があります。無色透明で石鹸は効きませんから覚えておいてください。

 正苦味泉は陽イオンにマグネシウムを含むもので、マグネシウム硫酸泉といいます。芒硝・石膏泉同様の効果があり、高血圧の血圧降下、脳卒中後の麻痺の改善や、動脈硬化の予防など、日本では数少ない名湯「脳卒中の湯」とも呼ばれています。無色透明で特有の苦味があります。

重炭酸土類泉

 重炭酸土類泉は正式にはカルシウム(マグネシウム)炭酸水素塩泉といいます。水1キログラム中に固形成分1,000ミリグラム以上を含有するもので、陰イオンがヒドロ炭酸イオン、陽イオンはカルシウム、マグネシウムが主成分でこれが結合すると、重炭酸カルシウムおよび重炭酸マグネシウムを構成するものをいいます。

 カルシウムやマグネシウムなどのアルカリ土金類イオンは、鎮痛作用が有りますからけいれんを緩めたり炎症を抑える効果もあります。アレルギー性疾患、慢性皮膚病、じんま疹によく効きます。無色透明でこれも石鹸は効きませんから体を洗うときはご注意下さい。

 伊豆半島のほぼ中央に存在する古い温泉場で、ただ一軒の湯ヶ島温泉はこの泉質です。昔から文人たちに愛されてきた温泉で、川端康成は此処に泊まり「伊豆の踊り子」を創作したとされています。渓谷にそっての旅館のたたずまいはたいへん情緒があり人気がありました。

明ばん泉

 明ばん泉(含アルミニウム泉)、正式にはアルミニウム硫酸塩泉といいます。水1キログラム巾に固形成分1,000ミリグラム以上を含有し、陽イオンとしてアルミニウムイオン1,000ミリグラム以上、陰イオンとして、硫酸イオンがその主成分をなしているものをいいます。昔、火山帯に温泉源を求めたのはこの成分が火山活動の盛んな地帯に多い為です。火山国日本には多く見受けられます。火山の少ない外国には少ない泉質です。実際には酸性明ばん緑ばん泉、酸牲明ばん泉の形で存在しています。

 慢牲の皮膚疾患や、慢性の粘膜の炎症(結膜炎など)、手足の多汗症、静脈瘤の改善によいとされています。明ばんは目薬の成分でもあるので昔は目を洗っていました。今は行われていませんがこの温泉は強い収斂作用があり、皮価や粘脹を引き締めます。子宝を授かりたい夫婦はこの泉質の温泉を利用すると願いが叶うとの裏話もあったそうですけど‥‥ はてさて‥‥。

酸性泉

 水1キログラム中に水素イオン1ミリグラム以上を含む温泉で、塩酸や硫酸のような遊離鉱酸を構成するものをいいます。ご承知のように、酸アルカリの度合いを示す値としてPH(ペーハー)があります。1から14まであり、7が中性で7より小さい数字は酸性で、7より大きい数字がアルカリです。

 日本で一番酸性の強い温泉はPH=1.1の玉川温泉(秋田県)でしょう。この温泉は周囲の岩石を浸食して崖崩れの原因になるので、近くの田沢湖に放流されました、お陰で湖の魚は全滅したそうです。そのほか草津、那須湯本、箱根大涌谷、川湯(北梅道)などが代表的な酸性泉です。

 魚が死に、金属も溶かしてしまう酸性泉に入浴しますと、肌がビリビリしみます。特に皮膚の弱いところの股や腋の下などは痛いようです。皮膚の弱い人はただれたりしますので入浴は避けたはうが良いでしょう。温泉は無色か微黄色で酸味があります。硫化水素、緑ばん(硫酸〉、明ばん、などを含んでいて、酸性硫化水素泉、酸性緑ばん泉、酸性明ばん泉などと呼ばれています。抗菌力があり、水虫、トリコモナス膣炎などに有効とされています。

 箱根の大涌谷は、100℃近い酸性の蒸気が噴出して、周りの岩石を浸食してがけ崩れが起き、道路工事をしてた人を直撃して30数名が亡くなった事故がありました。昭和30年ごろです。その後がけ崩れの防止策として、地中にボウリングをして、強制的に酸性蒸気を地上に噴出させ事故を防ぐことに成功しました。噴出している蒸気は100℃近い熱と酸性成分を持っているので、雨水や井水に注入して温泉を作りました。この方法を温泉造成といいます。全国で蒸気の噴出している所では、温泉造成で温泉が作られています。

放射能泉

 水1リットル中にラドンの量100億分の30キュリー以上を含むものを言う。日本の放射能泉の主体はラドン(ラジュウムエマナチオン)で、ラジウム泉とも呼ばれています。日本の放射能泉としては三朝、増富、有馬、栃尾又が有名です。

 効能としては「痛風の湯」と呼ばれていて、痛風関連の症状に良いとされています。肝機能の改善、神経痛、リュウマチ、神経麻痺に有効に作用します。ラジウムは崩壊してラドンに変換され半減期3.6日でポロニウムに崩壊するガス体です。人体には吸引が最も利用効率が良く、特に卵巣、睾丸の機能(ホルモン効果)を高める作用があります。

 1982年にアメリカのミズーリ大学の生命科学者トーマス・ドン・ラッキー教授が低線量の放射線は生物学的にも、化学的にも、物理的にも良い効果をもたらした研究発表をし「放射線ホルミシス」と名づけ話題を呼びました。ホルミシス(語源はギリシャ語でホルモンの意)とは、傷ついた細胞を修復し、細胞を活性化し、ホルモンのバランスを良くするを意味します。自己の免疫力を活性化して、自然治癒力を高め病の治療や健康維持に貢献するとされています。

 日本ではがんを主体とした難病の多くの方々が、治癒の為に玉川温泉(周辺の熱岩盤からの放射能に体を曝し快癒をはかる)や三朝温泉に訪れています。がんが日本人の病の一位を占める時代にあって放射能泉が益々貴重な温泉となり、関心も高まり利用者も増えております。

 私が20数年前に「家庭のお風呂で温泉を楽しもう」のキャッチフレーズで「薬用温泉入浴剤・日本名湯めぐり」を開発し1大ブームを起こしましたが、当時はどうしても放射泉だけは出来ませんでした。その後希土類鉱石を陶土に配合して1300℃で焼成し温泉母岩を創り世に出しました。39~40℃の少し低い温度での入浴でも、良く温まり、ホルミシス効果も期待され、湯がまろやかで好評を得ております。

単純泉

 泉温25℃以上で、温泉1キログラム中の溶存物質(ガス性のものを除く)が総量1,000ミリグラムに満たない温泉をいいます。

 単純温泉の呼び名から、ただ単に単純な泉質と誤解されがちですが、そうではありません。温泉に含まれている成分が薄い温泉で、いままで述べてきた泉質の全てが含まれています。単純食塩泉、単純重層泉、アルカリ性単純温泉(PH8.5以上)などがあり、医学的効果も異なります。

 単純温泉は、一般に体に対して刺激が少なく、緩和牲があり、リューマチ、脳卒中の回復、骨折や外傷後の療養、病後回復期などによいとされています。戦いで傷ついた武士を治した「信玄公の隠し湯」の下部温泉は有名です。その他、中風の湯・神経の湯と呼ばれる温泉もあり、利用範囲は広く高年者向きでもあります。

 無色透明で無味無臭のものが多く、石鹸はよく効き、湯がソフトで日本の名湯にもこの単純泉が多いのです。単純泉の効能に相応しい名称を考えたら良いのではないかと思われます。

著者:荒井孝