温泉物語の舞台が前回から世界に広がり、「おや?」と思われたみなさんも多かった様子…
その上、「温泉クイズ」に出題された「ヨーロッパの温泉地数(宿泊施設のある温泉地数)第一位の国は?」の正解が「ドイツ」と発表されて二度ビックリ!!……でしたか?
ドイツには火山がありません(前回の資料「世界活火山分布図」で掲示)。
それなのにドイツが「ヨーロッパ第一位の温泉国」とは?いったいどういうこと?
まぁ! まぁ! まぁ!……しばらくお待ちを……
「ヨーロッパの温泉」についてのお話はいろいろありますから、それは回を追って、ゆっくりご披露することとして…
この『テルメ温泉物語』の第一回、二回を通じて、当館和風浴場の象徴的存在である「窯風呂」(京都八瀬の竃風呂)についてのお話をしましたね。その窯風呂と対照的に、当館洋風浴場の象徴としてオシャレな姿を見せている「テルマリウム」。東洋の「窯風呂」に対して、西洋の「テルマリウム」といった存在。今回は、西の国からお嫁入りしてきた「テルマリウム」についてお話を進めていくことに致しましょう。
第二次世界大戦中、スターリングラードで多くの人々が凍死する事故が起こりました。
…が、その只中にありながら一つのグループが風も病気もしなかった事に興味を持った一人の医学者がいました。レド・ビーナです。
戦後祖国オーストリアに帰ったビーナは、ウィーン市民が病気がちである事と、スターリングラードの一部のグループの存在とを関連づけて考え続けました。その結果、病気の原因のバクテリアが、湿気や空気によって体内に伝染することを確かめました。また、人間の鼻や口から体内に入る病気は風邪だけではなく、他の病気も多いことも確かめました。病気になりやすいのは、寒くて湿気の少ない冬。つまり“熱”と“水”という閃きも得ました。
それにしても、バクテリアを体に入りにくくするにはどうするか?
人間の体内の免疫は病原菌に対する体の熱バランスにある、その免疫体系を熱バランスから開放させてやるには、どうするか?ビーナは、この二つの問題に取り組みました。
ビーナの研究は、近代医学からの攻撃にもあいました。…が、それに屈することなく続けた…その結果、辿りついたのは…なんと、古代ローマの公衆浴場(テルメ)だったのです。
古代ローマでは、紀元前1世紀頃から公衆浴場の建設が始まり4世紀頃には、ローマに400もの浴場があったと伝えられています。
400という数にも驚かされますが、それらの浴場には「温気浴室」「蒸気浴室」「熱気浴室」のほか、「マッサージ室」「プール」「運動場」「図書館」等が備わっていて、当時のローマ市民にとって、浴場は出会いの場であり、休養保養の場であり、また、文化芸術討論の場でもあったことから、別名「楽しい教会」と呼ばれ、親しまれていたと聞いて…いやー! 二度ビックリ!…
……と言いたいところですが…ビックリが、もう一つ!……
それは、浴室機能のすばらしさです。
浴室の暖房方法の特徴は床下暖房方式を採用。壁は中空になっていて、その中を暖められた空気が循環。つまり「輻射熱利用暖房」。対流型の熱源装置では暖められた空気と共にバクテリアや埃までもが室内を循環します。空気の撹拌は皮膚の乾燥どころか、病原菌をも拡散させているのです。
壁からの輻射熱を利用したテルメが、既に古代ローマ時代から実在していたことへの驚き!
努力、努力の調査の結果、この事実を探り当てたビーナは腰を抜かしたんじゃないですかねぇ…?
…それはともかくとして……
この古くからのすばらしい原理を、現代の医学的、歴史的、技術的知識に基づいて応用・再現して生まれたのが、熱と水の新しい施設、今回の物語の主人公「テルマリウム」です。
「テルマリウム」は、現在、ヨーロッパの病院、ホテル、スポーツ施設などでは不可欠な施設で、使用されているタイプは3~4種類。
当館のテルマリウムは、②の「カルダリウム」に分類されます。
どうぞ、古代ローマから受け継いだ蒸気浴で2000年の叡智に浸ってください。
著者:宇津木元